彼女は毎朝、机の前に座ります。
何やらいっしょうけんめい書いています。
書きながら、何度も止まります。
「あれも説明したい。これも書きたい」
文章は、どんどん長くなっていきます。
誰もついてこられないほど理論武装して、
資料ばかり増えていくこともありました。
気づくと、呼吸が浅くなっています。
肩が上がったまま、首が詰まっています。
机の前に座っているだけなのに、体はずっと小さく緊張しています。
股関節は沈黙を強いられ、目は、限界まで使われていました。
彼女は、自分の癖に気づき、
五感で感じられるような書き方に変えようとしていました。
「これでいいのかな」
と、手応えと不安を行きつ戻りつしながら。
座りっぱなしだと、あまりに股関節が固くなるので、
無意識に、足の裏でテニスボールをコロコロころがしていました。
「今日はここまで」
彼女はキッチンに下り、散歩のためのコーヒーとサンドウィッチを作り始めました。
卵がボイルされるまで、ぼんやりと体を動かします。
足が冷えきり、じんじんしています。
体をひねると、つりそうになります。
でも、お腹をおさえたとき、ふと気づきました。
──軸が、真っ直ぐだ。
昨日痛かった首が、今日は、楽な位置に乗っています。
──からだって、家みたいだ。
設計者の主張が強すぎると、家の住み心地は悪くなります。
家が建ったら、もう、主役は設計者から住む人へ移ります。
──言葉も同じだ。頭から、体へ。
彼女はそう、感じました。

雨上がりの土曜日。
公園の空気はどこまでも明るく、軽く。
テントを出してくつろぐ家族を見かけました。
ジョギングの途中、ベンチで休む人もいます。
彼女は、自分で淹れたコーヒーを飲みながら、
からだの変化を思い出し、この断片を書いています。





