* からだの物語 ── Body Stories *

心のクリニックを探していました。

ちょっと鬱なのかと思い、どこかに通ったほうがいいのかと調べていました。
そのとき見つけたのが、「極端思考」という言葉。
自分のことだ、と思いました。

物事を白か黒かで考えてしまう。
少し失敗すると「全部ダメだ」と感じてしまう。

ネット上の説明を読んでいるうちに、
頭の中でいろんな出来事がつながりました。

これだ、と思いました。

極端思考を改善するためのクリニックへ行き、
認知行動療法をすすめられました。

認知行動療法では、
日常の出来事を整理します。

何が起きたのか。
そのとき、どんな考えが浮かんだのか。
感情はどう動いたのか。

そして、その考え方が
本当に現実に近いのかを見直していきます。

日常生活でもメモを取りながら、熱心に取り組んでいました。

すると、友人が言いました。
「ボディートーク、受けてみたら」

信念システムにもアプローチできるらしい。
なるほど、と思いました。

初回の日のことは、よく覚えています。

ちょうど今日のような、
季節外れの雪の日でした。

風が強く、髪もコートも濡らしながら
セッションルームへ向かいました。

タオルを借り、頭を拭きながら、

クリニックでの治療を、一生懸命に説明しました。

認知行動療法でやっていること。
極端思考という言葉。日々のメモ。

セラピストは、
うなずきながら聞いていました。

そして、こう言いました。

「主語を、戻しましょうか」

主語?

正直、何を言っているのか
よくわかりませんでした。

「この椅子に座って、坐骨を感じてみてください。ここ。おしりの骨です」

坐骨?

変なところに来ちゃったな。
そう思いました。

でも、とにかく言われた通りにしてみました。

「左右に体を揺らしてみましょう。坐骨を、左、右」

椅子を並べて、セラピストと一緒に、

ゆらり。ゆらり。
そのたびに、坐骨も、ごりっ、ごりっと音を立てます。

何してるんだろう、俺。

そんなことを思っていました。

すると彼女が言いました。

「大丈夫ですよ。揺れの中に、いてください」

数年経った今も、なぜか、その言葉だけはずっと覚えています。

ボディートークは、軽く腕をとり、筋反射を見ながらバランスを取るところを見つけていきます。

誰かの参考になればと思い、そのときのメモを書きます。

優先は、副鼻腔。
「呼吸は、ほお骨から坐骨までつながった動きなんですよ」

太ももの内側を軽く圧迫され、ほお骨も軽く引っ張られた。
上から下まで息が通るような感じがした。

「あの、極端思考の信念システムは……?」

「極端思考は、あなたのせいではありません。信念システムでもありません。体の反応です」

よくわからないまま、
なんとなくスッキリして、
施術ベッドから降りました。

もう一度、チェアに座りました。
坐骨を、左右に揺らします。

「最初と比べて、どうですか」

「……軽いです」

物足りない感じがしたまま、帰りました。

主語を戻す、の意味がわかったのは、
ずっと後のことでした。

物足りない感じがしたのは、
でっかい主語が、頭の上からいなくなったせいでした。

認知行動療法をやっている自分。

極端思考の自分。

極端思考が、すぐに消えたわけではありません。
今でも、その癖を持っています。

でも、揺らぎを許せるようになったし、振り回されなくなりました。

坐骨に乗っている自分、気に入っています。
鼻も呼吸も、ずいぶん楽です。